ブログ

日別アーカイブ: 2025年10月20日

未来に繋ぐ阿波晩茶~episode22~

皆さんこんにちは!

Kamikatsu-TeaMateの更新担当の中西です!

 

さて今日は

未来に繋ぐ阿波晩茶〜episode22〜

 

 

阿波晩茶の製法は、地域の生活と一体で続いてきた。だが、人口の減少、担い手不足、気候の変動、資材や燃料の高騰は、静かな山里にも等しく押し寄せる。ここでは、ひとりの晩茶農家の視点から、「どう作り、どう売り、どう残すか」を具体的に考え、実践の断片を記してみたい。特色は乳酸発酵にあるが、それだけではない。原料の育て方、仕事の組み立て、来訪者との関係、外部との協働──それらが織り上げる網の目こそ、阿波晩茶の現在地だ。

経営の土台──“小さく、厚く”

小規模農家の強みは、工程の細部に手を入れられることと、顔の見える販売ができることにある。反面、天候や体調、イベントの影響を受けやすい。ここで大切なのは、数量を追い過ぎないことだ。仕込みは小分けに、ロットごとに味の個性を把握し、在庫の持ち方を工夫する。例えば、仕込み直後の若い香りのロット、冬を越して酸が丸くなったロット、といった時間差の提案を用意しておく。定期便を設定し、購入者に季節の変化を共有する通信を添えると、量を増やさずに価値を厚くできる。

価格設定は、作業時間、燃料、資材、運賃、税、そして畑の維持費を一つずつ洗い出す。山の仕事は「見えない費用」が多い。桶の補修、干し場のシート、刈刃の替え、運搬の人手。これらを含めた上で、生活が守れる価格を決める。安売りは未来の自分を削る。値付けの説明責任は、工程を見せる、体験を開く、味の違いを言葉にする努力で果たす。

作柄の平準化──リスクを割る設計

天候リスクの分散には、圃場の分散と仕込みの分散が効く。標高や向きの違う小さな畑を持ち、同じ日に一斉に摘まない。仕込み桶も一つにまとめず、複数に分ける。干し場も、直射を活かす棚と、陰干しに適した屋根下の二系統を用意する。発酵は生き物であり、時に「言うこと」を聞かない。だからこそ、戻しの効く設計がいる。酸が立ちすぎたロットは、火入れの温度と時間で輪郭を整える。香りが弱ければ、他のロットとブレンドする。ブレンドはごまかしではなく、意図のある調整だ。

体験と観光──「作る側」から「ともに作る側」へ

来訪の受け入れは、販路であり、理解者を育てる場でもある。見学の導線をつくり、危険と衛生のルールを明確にする。蒸し台の火の前は立入不可、干し場の上には荷物を置かない。写真撮影は可だが、他の人の顔が映らない配慮を求める。体験では、短時間で成果の見える工程(もみ、干し、選別など)を選ぶ。来訪者に「手触り」を残して帰ってもらうことが、記憶となり、再訪の動機になる。

季節の敷居も大切だ。夏の仕込み期は受け入れ枠を絞り、秋冬の干し上がりや火入れ、春先の畑整備に体験の厚みを置く。地域の食堂や宿と連携し、阿波晩茶を使った料理、出汁との合わせ、デザートの提案を共同で練る。観光パンフレットには、アクセス情報と併せて、所要時間、服装の注意、虫対策、飲み水の案内まで具体に書く。山に来る人の不安を先に解いておく。

研究と実践の橋渡し──菌叢を“測る”ことの意味

阿波晩茶の乳酸発酵は経験則の宝庫だが、分析の言葉を持てば、再現性が高まり、説得力も増す。近隣の大学や研究機関に声をかけ、酸度、pH、乳酸菌種、香気成分の簡易分析を試みる。大げさな設備は要らない。仕込み初期、中期、後期、揚げた直後、干し上がり、火入れ後──数点のサンプルと温度履歴を記録するだけでも、次年の仮説が立つ。分析値は味の優劣を決めるためではなく、振る舞いを理解するために使う。数字の裏に、桶の音や匂いの記憶を書き添える。

学校・福祉との連携──仕事の切り出し

夏の重労働ばかりがクローズアップされがちだが、阿波晩茶には、座ってできる仕事、手先の注意を要する仕事がたくさんある。選別、袋詰め、ラベル貼り、封の圧着、通信の折り、発送の箱組み。地域の学校や福祉作業所と連携し、仕事を切り出す。作業手順を図解し、品質の基準を一緒に作る。報酬は正価で、感謝は言葉で。関わる人が増えるほど、晩茶は地域の飲み物になる。

情報発信──「声」を育てる

山の仕事は、黙々と続けることが美徳のように思われがちだが、現代の販路では「声」を育てることも仕事のうちだ。毎日の発酵日誌を短文で公開しなくてもよい。月に一度、季節の仕事、味の手応え、来訪の予定、欠品と次回予定を淡々と知らせる。それだけで、待っている人の不安が消える。写真は光と影を写す。濡れた葉の艶、桶の縁の水滴、干し場の影。動画は音を写す。蒸気の唸り、足もみのリズム、簀の子が鳴る乾いた音。言葉が届かないことを、映像や音が補う。

後継と働き方──「一年限りの弟子」を増やす

本格的な後継者はすぐに見つからない。ならば、「一年限りの弟子」を増やす。夏の仕込みだけ、冬の火入れだけ、発送の繁忙期だけ、と期間限定の学びの枠を設ける。交通費と滞在費の枠を示し、労働と学びのバランスを明示する。短期でも「茶の原理」と「山のルール」が伝われば、いつか別の土地で別の作物に関わる人にも届く。広い意味での後継は、地域外にも芽を持つ。

包装と環境──山の理に沿う

阿波晩茶の包装は、湿気光を避ける機能が第一だが、山の理に沿った素材選びも考える。完全なプラスチック排除は現実的でないが、詰め替え用や大袋の導入、再利用可能な缶や瓶との組み合わせ、ラベルの簡素化など、できる折り合いはある。発送の緩衝材は、山の藁や紙を使い、見た目のやさしさだけでなく、実際の保護性能を検証する。簡素は手抜きではない。手を入れた簡素は、余白に仕事が見える。

「健康」をどう語るか

発酵茶である以上、健康効果を期待する声は避けられない。だが、根拠の薄い効能をうたうことは、飲み手のためにも、作り手のためにもならない。ここで採るべき態度は「暮らしに溶ける飲み物」という語りだ。食事に寄り添い、喉の渇きをやさしく潤し、暑気に効き、寒の内に温める。塩を含まない酸味は、生まれたばかりの子に与えるものではないが、年寄りの胃にも重くない。家ごとの飲み方の聞き書きを集め、地域誌の片隅に載せる。効能ではなく、習慣の強さが、飲み物の居場所を決める。

共同と規模──単独の限界を越える

単独の農家では受けきれない注文、イベント、卸の要望がある。ここで「味を混ぜずに力を混ぜる」共同の形が役に立つ。予約管理や決済、発送の集約、イベント出店の交代制。味は各家の屋号で個別に出し、事務の土台だけを共同化する。共同購入で資材の単価を下げ、燃料の調達もまとめる。山の仕事は孤独で良いが、孤立は持たない。声を掛けられる間柄を、平時からつくっておく。

変化への覚悟──原理を守り、手段を試す

阿波晩茶の原理は、夏の厚葉、蒸し、もみ、乳酸発酵、天日干し。この背骨は動かさない。だが、手段は試す。小さな温度記録計の導入、通風の改善、可搬式の干し棚、軽トラックの荷台テント、薪とガスの併用。伝統は道具の型を意味しない。原理を支えるために、時代の道具を借りる。道具に使われないよう、手の感覚と耳と鼻を、いつも先に置く。

終章──湯気の先にいる人

阿波晩茶は、仕込みの汗と、桶の静けさと、干し場の眩しさが、湯気に化けた飲み物だ。経営を考え、販路を整え、伝える工夫を凝らすことは、湯気の先にいる人を思うことにほかならない。顔が見える販売の強みとは、困ったときに「今年は少ない」と言える関係性であり、「来年を一緒に待とう」と言ってもらえる安心だ。山の時間は急がない。だが、守るべきものは悠長に構えているだけでは守れない。手を動かし、言葉を尽くし、山と相談しながら、また一桶、仕込む。湯を沸かす人の暮らしが今日も続く限り、阿波晩茶は続く。その確信だけを道標に、次の夏を迎えたい。

 

 

阿波晩茶はオンラインでもご購入できます♪

オンラインショップ