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未来に繋ぐ阿波晩茶~episode27~

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皆さんこんにちは!

Kamikatsu-TeaMateの更新担当の中西です!

 

~「樽漬け発酵茶」の誇り~

 

阿波晩茶は、徳島県の山間部で受け継がれてきた、乳酸発酵による後発酵茶です。茶葉をいったん熱処理したうえで木桶に漬け込み、空気を抜いて嫌気的に乳酸発酵を進め、天日で干し上げる――この独特の製法が、地域の暮らしの中に深く根を下ろしてきました。

この製造技術は、上勝町・那賀町・美波町などに伝承される民俗技術として、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
それは「特別なお茶」だからというだけでなく、家ごとに伝えられてきた手仕事、昔ながらの道具、山里の暮らしの知恵が、いまも息づいているからにほかなりません。

本記事では、阿波晩茶農家が「伝統を守り抜く誇り」をどこに感じているのかを、製法の具体とともに丁寧に言葉にしていきます。


1. 阿波晩茶は「山の暮らし」そのものから生まれた

阿波晩茶の産地は、四国山地の山間地に広がります。急峻な谷、点在する家々、限られた耕地。そうした条件の中で、畑作を基本とする暮らしが長く続き、周辺の山林には茶の木が多く自生してきたとされます。

この地域で阿波晩茶は、もともと「家で飲むためのお茶」として、家ごとに自給中心で作られてきました。
売るための商品というより、家の一年を支える生活の一部。だからこそ、作り方は画一的ではなく、家ごとの道具、家ごとの段取り、家のリズムの中で守られてきたのです。

この「生活と地続き」であることが、阿波晩茶の伝統の強さであり、農家にとっての誇りの源泉になっています。


2. 盛夏に摘む葉、そして一日で一気に仕込む「夏の総力戦」

阿波晩茶づくりは、夏に集中します。製造は主に7〜8月に行われ、茶摘みから、茶茹で、茶摺り、漬け込み、茶干し、選別まで、工程が連なります。

特に特徴的なのは、茶摘みが盛夏の時期に行われる点です。一般的な緑茶のように新芽を摘むのではなく、成長した葉を使うことに特色があると説明されています。
この「遅い時期まで成長した葉を使う」という意味合いから、現在は「阿波晩茶」と表記されるようになった、という整理もあります。

そして、阿波晩茶の現場には、毎年必ず訪れる緊張感があります。
茶摘みは手摘みで、家族や親類が中心となり、場合によっては近所や知人の手も借りながら進めるとされています。
摘んだ茶葉を仕込む日は、茶茹でから漬け込みまでを一日で行う流れが示されており、ここがまさに「総力戦」です。

暑さ、時間、段取り。少しでも油断すると、仕込みが遅れ、発酵の立ち上がりや品質に影響する。だからこそ、家の中の役割分担、道具の準備、火の管理、動線まで含めて、毎年積み上げてきた知恵が活きるのです。


3. 「茶摺り」と「漬け込み」――見えない発酵を立ち上げる職人の感覚

阿波晩茶の核となるのが、茶摺りと漬け込みです。

資料では、茶茹での工程で、大釜に茶葉を入れ、又木で押し込みながら茹で、次の茶摺りで茶葉に傷をつけて発酵を促す、という流れが説明されています。さらに、茶摺りには「茶摺り舟」を用いた手作業がいまも続けられているとされます。
ここに、伝統が「技術」として生きている姿があります。

そして漬け込み。茹でて摺った茶葉を巨大な木桶に入れ、空気が入らないよう踏み込み、葉や石などで押さえ、密閉して発酵を促す――嫌気的に乳酸発酵を進めるための工夫が、工程の意味として説明されています。

重要なのは、発酵が「目に見えない」ということです。
温度、湿度、茶葉の状態、踏み込み具合、桶の扱い。数値だけで割り切れない要素が多く、最後は人の観察と経験がものを言います。
農家が誇りを感じるのは、まさにこの部分です。見えない微生物の働きを、段取りと所作で立ち上げる。先人から受け取った手の感覚を、今年の茶葉に合わせて微調整する。伝統とは、過去のやり方を固定することではなく、毎年の条件の違いに合わせて「同じ本質」を再現する力でもあります。


4. 天日干しと選別――最後の仕上げに現れる、作り手の性格

発酵が進んだ茶葉は、晴天に合わせて取り出され、筵などに広げて天日で乾燥させる工程が示されています。
天候を読むこと、乾き具合を見極めること、乾燥中の扱いを丁寧にすること。ここでも、作り手の注意深さが品質に直結します。

さらに最後に、茶の実や割れ葉などを取り除き、篩や箕、手作業で選別し、形を崩さないように詰める、という仕上げが説明されています。
この地味な工程に、農家の誇りが宿ります。
「良いものを、良い状態で残す」。
大量生産では見落とされがちな“最後のひと手間”が、阿波晩茶の価値を支えています。


5. 重要無形民俗文化財に指定されたという「背中を押される感覚」

阿波晩茶の製造技術が重要無形民俗文化財に指定されたことは、農家にとって単なる称号ではありません。
それは、自分たちの手仕事が「地域の文化そのもの」として認められたということ。言い換えれば、祖父母や親世代が守ってきた営みが、社会的な価値として言語化された瞬間でもあります。

同時に、指定は責任も生みます。
伝統は、残っているだけでは守れません。作り手が減れば、桶も道具も、所作も消えてしまう。だからこそ、農家の誇りは「誇れること」だけでなく、「守り続ける意思」へとつながっていきます。


阿波晩茶の誇りは、生活と技術を途切れさせないこと

阿波晩茶農家が守り抜く伝統の誇りは、派手な物語ではなく、夏の暑さの中で積み上げる段取り、手の感覚、家の共同作業にあります。
盛夏の葉を摘み、茹で、摺り、桶に漬け、天日で干し、選別する。
その一連が、山里の暮らしを形づくり、地域の文化として評価されてきました。

一杯のお茶は、ただの飲み物ではありません。
それは、その家が今年も伝統をつなげた証であり、次の世代へ渡す約束でもあります。